【フリーライターの本音】どうしようもなく相性が悪い人にインタビューした話




先日、なんともいえない後味の悪いインタビュー取材を経験した。ライターを初めてからの3年弱で500人近く取材をしているが、ここまで相性が悪い人は初めてだった。

相手は、独特の世界観を持つ若手作家。自分の性愛をさらけ出して全世界に発信するその人と、相性が合わないだろうことは、会う前から薄々わかっていた。

私は、自分の内面をさらけ出すことには抵抗があり、とてもじゃないがその人のように自分の性愛を丸裸にすることはできない。このブログで書いていることは私の内面ではあるが、他人の視点を意識しながら、気持ちの出し方をコントロールしている。

それに、その人が綴る価値観にもさほど共感できなかった。

ただ、その作家の表現力は素直にすばらしいと感じていて、その人の文章がどんなふうに生まれてくるのかを知りたくて、「会いたい」とオファーを出したのは、誰でもない私自身だった。

インタビューが始まって早々に、お互いの相性の悪さが現れはじめた。相手は私の説明を飲み込めていないようで、明らかに反応が鈍い。

私が相手の立場だったら、「何が言いたいんだろう」と思っていても、自分のなかでなんとか落とし込んで、その場を和やかに保つ努力をする。

でも、その人は嘘をつけない人なのだと思う。ストレートに「わからない」と言うし、その気持ちをそのまんま顔に出す。

私に対する不信感も見え隠れしていた。

気まずいったらない。こんなインタビューで本当に記事が書けるのか? という不安もよぎる。

インタビューが終盤に差し掛かったとき、その人が明らかに上から目線で私に説教じみた言葉を投げかけた。一瞬思わず固まったが、場の空気をこれ以上悪くしてはいけないと、笑顔で言葉を返した。

あなたが言うことは正しいのかもしれないけれど、あなたの態度はそれで正しいの?

本心は、言えなかった。

物書きとしてのキャリアはその人のほうが上だし、こちらからインタビューをさせてほしいとお願いしたわけだけど、でも一人の大人として正しい判断だとは思えなかったし、とても残念だった。

幸いその場には、私とその人以外にもう1人編集者がいたため、編集者のフォローのおかげで、チグハグながらもインタビューはなんとか形になった。

私のライターとしての力不足は自覚している。でも音声を聞き返しても、それほどひどい進行だとは感じなかった。インタビューが後味が悪いものになった一番の理由は、「相性の悪さ」に他ならない。

これだけ相性が悪かったら、関係性をつくるのは難しいだろうし、これからの人生で接点が必要ないなら、つくる必要もないのかもしれない。

ただ、相性が最悪であったとしても、その人との関係性を諦めてしまったら私の世界は狭くなる一方だし、この先、地球を脅かす重大な問題が起こって地球人が一致団結しなければいけなくなったら、「あの人とは相性が悪いから」なんて言ってられない。

それにライターである私は、この先もあらゆる人へインタビューをしなければならない。いや、したい。そのためには、相性の良し悪しも超えなければいけない。

だから、「もうその人には会いたくない」というのが正直な気持ちではあるけれど、あえて、心の奥底にある「その人とわかり合いたい」というわずかな気持ちに目を向けたい。その気持ちが0じゃなければ、何かしらの関係性を保つことができると信じたい。

相手に向けるのは、「わかり合いたい」という気持ちだけ。そして、とにかく真摯に向き合うこと。それしかない。相性が悪い相手には、表面上の言葉では通じないのだから。

嘘をつかずに、ありのままに自分の言葉で。・・・できるかな(笑)。次に会えたときは、笑顔で会話を交わせますように。




ABOUTこの記事をかいた人

【フリーライター/北欧イノベーション研究家】1981年、埼玉県生まれ。「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ。【イノベーション、キャリア、海外文化】などの記事を執筆。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材しました。2022年3月より東京拠点に戻しつつ、北欧イノベーションの研究を継続しています。