【体当たりレポ】島根県の山奥で「匹見ワサビ」を収穫。自然の恵みを五感で感じる旅




こんにちは! 恋する旅ライターかおりです。

フリーライターになってからというもの、ハロウィンコスプレに食レポ、ボクシング体験etc……いくつもの体験レポートを重ねてきた私。ですが、これほど過酷かつ達成感で満たされたロケはありませんでした。

それが、島根県にある宿泊/飲食施設「オーベルジュわさび」での匹見ワサビの収穫体験。

もともとは、旅系のWEBメディアで執筆するための取材でしたが、諸事情があり閉鎖され記事が消えてしまったため、私のブログにて復活させましたー!わーい!!(もちろん、メディアの運営者や取材先に了承済です)

「ワサビ農家の、ワサビ農家による、ワサビの為のレストラン」をコンセプトに、貴重な匹見ワサビをはじめ、水質日本一に選ばれた高津川流域の高級食材を使ったメニューを味わえる「オーベルジュわさび」。

ここに宿泊するうえで見逃せないのが、匹見ワサビの収穫体験というわけです。断崖絶壁を渡るなど本格的な山登りをしなければ辿り着けないワサビ田での収穫は、他では絶対に味わえない唯一無二の体験です。

風情満点の和空間でいただく島根の恵み、心温まる尺八での歓迎も

山々に囲まれた大自然が残る益田市匹見町。空気がおいしい!! ただし、夜は熊が出没することもあるため、むやみに出歩くのは危険だそう。2016年11月、私はこの町に根を張る宿泊・飲食施設「オーベルジュわさび」を訪れました。

玄関に一歩足を踏み入れると、そこには大正時代にタイムスリップしたかのような風情ある和空間が広がります。日本国内でも滅多にお目にかかれないような立派な囲炉裏も。食事を予約すると、ここでいただけるそうです。

窓の外には井戸がありました。窓が大きくて開放感バツグン。

大・中・小の和室があり、家族や友人など団体での利用もできるこちらの物件。部屋の窓からは緑がたっぷりの庭を眺めることができ、ゆっくりとくつろげます。

到着するやいなや、ホストの三浦さんが得意の尺八を披露してくれました。奥深い音色は思わず酔いしれてしまうほど。心のこもった歓迎に胸が熱くなります。

続いて4種類のワサビが登場。こちらは、オーベルジュわさびならではの利きワサビ体験です。メニュー名は「ワサビ総選挙」! 向かって左から、西洋ワサビ・粉ワサビ・練りワサビ、そして奥にあるものが本物のワサビ。それぞれ辛味の度合いも風味も異なります。一番の驚きは、言葉では表現できないほどの「本物のワサビ」の複雑な味わい。

ちなみに「本ワサビ」という言葉がありますが、これは実は辞書には載っていない名称だそう。というのも食品加工業界が都合の良いように創った言葉だから。一般的には「本物のワサビ」と誤解を与える表現ですが、実際は安価な茎部分に大量の添加物を混入した、本物とは程遠いものだと三浦さんが教えてくれました。

食事はオプションですが、3,000〜10,000円まで予算に合わせて、調理師免許を持つ三浦さんが心を込めて振舞ってくれます。使用する食材は水質日本一に輝いた高津川流域の高級食材の数々。もちろん匹見ワサビもふんだんに使われています。

匹見ワサビの名声を取り戻したい、強い信念でレストランを開始

尺八演奏に利きワサビなどユーモアあふれる歓迎をしてくれた、ホスピタリティ精神あふれるホストの三浦さん。実は並々ならぬ匹見ワサビへの想いから、このレストランをオープンさせたそうです。その経緯や三浦さんが提唱するエコな暮らしについて、お聞きしました。

—三浦さんが、「オーベルジュわさび」をオープンするに至ったきっかけを教えてください。

ワサビ農家を目指して東京から匹見にやってきた5年前、地元で匹見ワサビを食べられる場所は皆無でした。かつて島根の名産品であった「匹見ワサビ」は、すっかり廃れてしまっていたんです。地元の人たちでさえ、ワサビの産地としての認知がなかったのですから。その事実にショックを受け、「なんとか匹見ワサビの名声を復活させたい」との強い想いから、地元にレストランをオープンさせました。地元のワサビを食べに来た旅行者を失望させたくなかったこともあります。

宿に関してはその延長線上で始めたことでしたが、おいしい食事やお酒を心ゆくまで楽しんだあと、ぜひそのままゆっくり宿泊していただけたらと思います。

—随分と立派な物件ですね。以前はどなたかの持ち家だったんですか?

元々は江戸時代の名士の家で、それを旧匹見町が買い取り料亭旅館として使われていました。皇室関係者が宿泊したり、けっこう賑わったそうです。現在はNPO法人「アンダンテ21」が借り、その会員の私が管理・活用している状態ですね。 ちなみにアンダンテ21の主な活動は自然環境の保全です。

—この物件だからこそできる特別な体験について、お聞きしたいです。

まずは匹見ワサビをはじめ、この地域の高級食材を使った料理の提供です。また、食事と一緒にぜひ体験してほしいのが匹見ワサビの収穫。ワサビは収穫するまでに3年もの歳月が必要で、非常に栽培に手間がかかる食材なんです。加えて暑さに弱く、管理が難しい。

そういったワサビを収穫するまでの苦労を知ってもらいたいと思い、この収穫体験を始めることにしました。実は匹見に来てから最初の2年間は修行を積んでいて、3年目にやっとワサビを植えられたので、今年が初収穫なんです。これから1人でも多くの方に収穫を体験していただけたら嬉しいですね。収穫以外にも、タイミングさえ合えば種まきや花芽の収穫もできます。

さらに、「ワサビ漬」や「うずめ飯」の調理体験が可能です。うずめ飯はワサビを使った郷土料理です。その他運が良ければ、山で捕獲できる猪やマムシの解体体験ができるかもしれません。

また、あまりエネルギーを使わずゴミを出さないエコな暮らしの大切さを感じてもらうために、冷暖房の使用やゴミの廃棄を有料にしています。ほんの小さな心がけの一つひとつが、地球温暖化防止につながることを体感してほしいとの思いからです。暑さに弱いワサビを守りたいのです。

—これまでに、どんなゲストの方が訪れましたか?

学生さんの合宿利用や、NPO法人アンダンテ21主催の川遊びイベントで子供たちが宿泊したほか、渓流釣り、登山、紅葉狩り、キノコ狩りを楽しまれる方など、さまざまです。接待や両親への慰労旅行として利用してくださった方もいましたね。

今年春にAirbnbでの宿泊受付を開始してからは、外国人の方にもチラホラお越しいただき、一緒にマムシを解体したり。実は毒蛇として恐れられているマムシはとてもおいしい食材で、外国人ゲストにも喜ばれました。

—今後、どういったゲストの方に訪れてほしいと思われますか?

農業や畜産における生産技術は、近年かなりのスピードで向上しています。一方で生産性にこだわる余り、自然の摂理を見失っているようにも感じられます。「本当においしい野菜や健康な動物の命をありがたく頂戴する」、そういった意識が世の中に欠けている気がしてなりません。そんななかで、苦労が多いワサビ栽培の現状を知り収穫を体験してみたい、農家を応援したい、そして自然が大好きだという方に、ぜひお越しいただけたら嬉しいですね。

断崖絶壁を登る体当たりの収穫体験で、感謝の心が自然と芽生える

オーベルジュわさび家に宿泊した翌日、3年越しの貴重な「匹見ワサビの収穫体験」をさせていただくことに。なんと、三浦さん自身も自分の手で育てたワサビを収穫するのは、この日が初めてだそう。記念すべき第1回目に同行させてもらうことに恐縮しつつ、ワサビ田のある山に向かいます。山に入るとお手洗いがないため、あらかじめ済ませておきましょう。

10分ほどで山に到着すると、いきなり難関が待ち受けています! 水深30mほどの川を向こう岸まで渡らなければなりません。胴まである長靴を装着し、いざ川へ。滑らないように注意しつつ、一歩一歩前へ進みます。

取材した11月はたまたま水深が浅かったのですが、時期によっては1mほどになることもあるとか。そうなると流される危険性があるため、このように川の上に張ったロープに捕まって渡るそう。三浦さんはなんなく渡っていましたが、私はきっとできないだろうなぁ(笑)。

川を渡ると、次はトレッキングポールを使用する本格的な登山が待ち受けています。注意深く歩かないと滑り落ちてしまいそうな急勾配やすぐ横が数mの崖になっている断崖絶壁、さらには岩に足をかけてよじ登る岩山など、女性や運動不足の方にはかなり辛い道のりが続きます。

11月にも関わらず、じんわりと汗がにじむほどの運動量。「まさにジブリの世界」といえる幻想的な自然風景や雄大な滝にも出会えます。

およそ50分ほどかかり、なんとかワサビ田に到達。一面に広がるワサビを見て「ギブアップせず登りきってよかった」、心からそう思えました。

ワサビの栽培方法は2通り。畑(土の中)で育てるものを畑ワサビ、水田(水の中)で栽培するものを水ワサビといい、水田で育てたほうがより大きなワサビができあがります。さらに日当たりも重要で、ちょうど良く陽が当たるよう周辺の木を切るなどして管理していると三浦さんが教えてくれました。

早速、収穫をスタート。まずはワサビ周辺の石を取り除き、さらに周囲の砂利を手で掘っていきます。

そのあと、茎を持って揺らしながら引き抜くと、地下に隠れていたワサビがお目見え。ワサビに絡まった砂利や泥を川の水で洗ったあと汚れた葉っぱをもぎ取り、キレイな状態に整えます。

自分の手で収穫したワサビを、森林に囲まれたマイナスイオンたっぷりの場所でいただくのは、なんとも至福を感じる瞬間。

匹見の在来種、遠い古くから匹見に育つワサビは、辛味に加えて粘りと、ほのかに甘みを感じるのが特徴です。昨日、宿でいただいたワサビよりも何倍もおいしく感じられました。収穫したワサビは持ち帰ることができるので、お土産にしても喜ばれるはず。

この収穫体験を通して一番に湧き上がったのは、食べ物の生産者の方々、そして自然の恵みへの「感謝の気持ち」でした。心を込めて食べ物を育ててくれる方々の存在、そして恵みを与えてくれる自然があってこそ、私たちは日々お腹と心を満たせているのだと。毎日食事をする際に、このときの気持ちを思い出しています。

「いただきます」の精神を改めて思い出させてくれる「オーベルジュわさび」での体験は、お金に変えられない特別な価値がある、そう思えてなりません。

〜おまけの一言〜

「時々マムシが出ます」、体験前にそう聞きビビりまくりだった筆者。高層ビルに囲まれた東京で運動不足の日々を送る私にとって、今回のワサビ収穫は一大チャレンジでした。「もうギブアップしてしまおうか」、登山の最中に何度そう思ったことか。しかし! 体験を終えて自然とあふれ出た感謝の気持ちはプライスレスの収穫。こんなにもスペシャルな体験ができたことを心から幸せに思います。

【オーベルジュわさび家  施設情報】

住所:島根県益田市匹見町匹見イ679 「いこいの家」内
電話番号:050-5885-5888
※日中はわさび田で農作業をしており、連絡がとれないことがあります。その場合は、留守電にメッセージを残してください。
メールアドレス:info@wasabi.organic
公式ホームページはこちらから




ABOUTこの記事をかいた人

1981年、埼玉県生まれ。2014年ライターデビュー。旅と仕事を両立できる働き方にトライしていて、2020年はデンマークに移住して、現地のフォルケホイスコーレに留学しながら仕事を続けています。【働き方/旅/IT】などの分野で、800以上の記事を執筆。 ブログや執筆記事の更新は、FacebookとTwitter、日常や旅写真は、Instagramにてお知らせしています♡